PMDAによる新型コロナウィルス変異株への対応について考える

投稿日:2021年5月2日

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先ごろ新型コロナウィルスのワクチン接種が日本でもようやく開始されましたが,4月に入っても感染者数の増加に一向に歯止めがかからないことから,先 日またしても緊急事態宣言(今回は東京都, 大阪府, 兵庫県,京都府のみ)が発令されることになりました。
このような状況の中, 新型コロナウィルスの変異株に対応するワクチンにつ いて, 医薬品等の承認審査を行う医薬品医療機器総合機構 (PMDA) は, 4 月 5日,新たな方針を明らかにしました。それによりますと,国内で承認済みのワクチンと製造方法や接種方法等が同じ(又は極めて類似)など承認済みのワクチンを改良したものであれば, 安全性や免疫反応などに関する一定の要件を満たした海外での臨床試験(治験)結果が提出されるなど一 定の条件のもと, 追加の国内での臨床試験は必要としないことになりました。この点において, 従前より臨床試験には非常に長い時間がかかることが問題とされていましたが,今回のPMDAの判断により,海外で行われたワクチンの有効性や安全性の臨床試験データが活用できることになり, 変異株用の改良ワクチンの審査期間を短縮することができる可能があるとのことです。また,承認 済みのワクチンとは製造方法等に相違点がある場合であっても, 改めて説明のための資料提出が求められ, それに基づいて改めて承認のための審査が行われ ることになるとのことです。
PMDAが以上のような発表を行うことは, インフルエンザのワクチン以外では極めて異例といえます。
なお, PMDAは, 2 0 2 0 年 9 月の指針で, 国内での承認には国内での臨床 試験が必要だとしていました。

これまで新型コロナの変異株を巡っては, 既に接種が始まっていた従来型のコロナウィルス用のワクチンの効果は低下してしまうのではないかが懸念されいましたが,今回のPMDAの発表を受けて,メーカー側はこれに対応した改良ワクチンの開発を急ピッチで進めているそうです。以上のようなPMDAの判断は,2 0 2 1年になって新たに拡大した変異株への迅速な対応を示したものであり,非常に評価できるものといえると思います。ただ,ここで注意する必要があることは,仮に対象となるワクチンが既に国内で承認済みのワクチンの改良型などのものであったとしても,今回のPMD Aの判断により国内での臨床試験が全く不要となったわけではありません。あ くまで固内で承認済みのワクチンと医学的・薬学的見地から同程度の安全性が手続上担保された上での今回の判断であることに注意する必要があります。
これまで,日本において新たな医薬品が承認されるまでには非常に長い時間をかけて厳密に臨床試験が行われてきた経緯があります。それを考えると,いかに新型コロナウィルスという世界的な脅威に対応するためとはいえ,今回のP MDAの判断がワクチンとして承認されるまでの期間を劇的に短縮するかどう かは全く不透明です。
とはいえ,新型コロナウィルスという世界的危機をきっかけとして,これまで時間がかかりすぎていた薬事行政を大幅に進展させることが期待できるのであ れば,今回の危機を新たな進展の契機として捉えた上で今後の推移を注意深く 見守る必要があるようにも思います。