国際相続判例研究 1(有斐閣「判例百選」より抜粋)

投稿日:2026年2月1日

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1.損害賠償債務の相続(大阪地裁昭和62年2月27日判決)

参照条文

事案の概要

日本人である訴外AがX(原告)とともに米国カリフォルニア州に留学中、現地で自動車を賃借してXを同乗させ、自ら運転して州道を走行中、反対車線に進入して対向車両と正面衝突した。その結果、Aは死亡し、Xは重症を負った。

Xは、Aがカリフォルニア州法によりXに対して損害賠償責任を負い、Aの父母で相続人であるY₁、Y₂がAの損害賠償債務を2分の1ずつ相続すると主張し、Y₁らに対してそれぞれ約4,400万円ずつ支払うよう提訴した。

なお、本件事故については、カリフォルニア州上級裁判所において、Aが車両を借りる際に加入した団体保険の生命保険金15万ドルをAの遺産とし、これを対象とする同州法上の遺産管理手続(プロベート)が行われ、Xは本件事故による損害賠償債務の弁済として少なくとも約5万8,000ドルの配当を既に受領している。

結論

請求棄却

判旨

裁判所は、相続財産の構成および移転の問題は被相続人の本国法に準拠する(通則法36条)としつつ、不法行為に基づく損害賠償債権債務関係の成立や効力に関する問題は不法行為地法に準拠する(通則法17条)と整理した。

そして、本件事故によって生ずる損害賠償債権債務関係の成立および効力は、不法行為地法であるカリフォルニア州法により決定されるとした。

カリフォルニア州法では、債務の相続性が認められず、被相続人の債務は相続の対象とならないとされるため、本件債務がAの相続人であるYらに相続されることはないと判断した。

さらに、本件債務の相続性を肯定し相続による承継を認めるには、不法行為準拠法であるカリフォルニア州法と相続準拠法である日本法の双方が相続性を認めていることを要するとし、結論としてXの請求を棄却した。

判例解説

損害賠償債務の相続は、相続財産の構成および移転(通則法36条)と、不法行為債権の譲渡および相続(通則法17条)という2つの側面を含む。本判決は、前者について日本法、後者についてカリフォルニア州法を累積的に適用したうえで、相続性を肯定するには両法が相続性を認めていることが必要だとした点に意義がある。

その結果、相続準拠法である日本法では債務承継が観念できるとしても、不法行為準拠法であるカリフォルニア州法が債務の相続性を否定する以上、本件債務は相続人Yらに承継されないと結論づけた。

豆知識

プロベート(遺産管理手続)とは

日本では遺言検認手続と訳されることが多いが、英米法圏ではより広く、遺産の管理や清算手続全般を意味する。地域により内容は異なるものの、管理清算主義を採用する英米法圏では広く用いられている。

これに対して、日本や大陸法(ドイツ、フランス法)では包括承継主義を採用し、相続開始とともに被相続人の相続財産と相続債務が相続人に包括的に承継される