国際相続判例研究 2(有斐閣「判例百選」より抜粋)

投稿日:2026年2月1日

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2.相続財産の範囲(東京地裁平成26年7月8日判決)

事案の概要

Aは平成22年1月に死亡し、相続人は妻Y1と先妻の子Xである。

亡Aは公正証書遺言(本件遺言)により、①不動産をYに相続させる、②その他の金融機関の預貯金債権を含む金融資産等については10分の4をYに、10分の6をXに相続させる、③これ以外の財産一切ならびに公租公課および債務はYに相続させる、④遺言執行者および祭祀承継者をYとする、旨を定めた。

Yは遺言執行者として財産目録を作成しXに提示した。XとYは平成22年の合意書により、本件財産目録に記載された金融資産について、⑤各自が相続税申告をすること、⑥相続税申告後に被相続人の遺産が現れたときは本件遺言に従うことなどを合意した。

その後、Yは平成23年12月、本件財産目録に記載されていなかったバンク・オブ・ハワイの預貯金約3,900万円(本件預金)等を亡Aの遺産として修正申告し、追加税額をXおよびY名義で納税した。

本件預金は亡AとYの共同名義口座であり、ハワイ州法の一つである統一遺産管理法典上のジョイント・アカウントに当たるものであった。

そこで、Xは本件預金が相続財産であり、本件遺言で定めた金融資産等に当たるとして、Yに対し10分の6の支払を求めた。

結論

請求棄却

判旨

裁判所は、亡Aの相続については通則法36条により日本法が準拠法となるため、どのような財産が相続財産となるかは相続準拠法である日本法により定められると整理した。

他方で、ある財産ないし権利が相続財産となるためには相続の客体性、被相続性を有することが必要であり、相続の客体となり得るか否かは当該財産ないし権利の属性に関わる問題で、当該財産ないし権利に内在するものといえるとして、法律行為の成立および効力の問題として通則法7条および8条の準拠法により判断されるとした。

そして、本件預金契約については預金口座が所在する地の法律により規律されるとの定めがあることから、本件預金に適用される個別準拠法はハワイ州法であるとした。

さらに、ジョイント・アカウントは共同名義人の死亡時に相続により移転することができず、一般的な移転可能性もない財産としてハワイ州法が定めているものと認めるのが相当であるとし、ジョイント・アカウントは個別準拠法上、相続の客体とならない制度であるから、本件預金は相続の客体となり得ず、亡Aの相続財産を構成しないと解されるとして、請求を棄却した。

判例解説

本件は、相続代替制度の一つであるジョイント・アカウント制度を利用してハワイの銀行に開設された口座について、相続における位置づけが問題となった事例である。

ジョイント・アカウントに関する裁判例として、遺留分減殺請求が問題となった東京地裁平成19年3月28日判決がある。同判決は、カリフォルニア州法上、名義人の一方が死亡した場合、当該ジョイント・アカウントは当然に他方の名義人の所有資産となり、死亡した名義人の遺産には含めないとされていることが認められると述べた。

もっとも、同判決は、ジョイント・アカウントが当然に他方の名義人の所有資産となるかどうかは相続にかかる準拠法に従って決定されるべきであるとして、日本法上は遺留分減殺が認められると判示した。

本件判決は、相続財産の構成に関して、問題となる事項ごとに相続準拠法と個別財産準拠法を配分的に適用すべきとする考え方を前提に、結論として本件預金は相続財産に当たらないと判断した点に特徴がある。

豆知識

ジョイント・アカウント(共同口座)とは

複数人が共同で名義人となる口座で、欧米では一般的に普及している。2人以上で一つの口座を共有し、口座の名義人が連名となり、名義人各人が出入金などの管理を行える点が特徴である。夫婦やパートナー間の生活費や家計管理用、ビジネスでは共同事業の資金管理として用いられる。

とりわけ欧米では、生存者権付共同口座(Joint Account with Right of Survivorship)が一般的であり、①片方が亡くなると残高が自動的に生存者のものとなる、②相続手続(遺産分割)を経ない、③配偶者控除により非課税となることがある、などの点が特徴として挙げられる。