相続 Q&A ー 遺産分割の方法

Q
遺産分割協議の公正証書を作成する際に、相続人の範囲を確定するに当たって、どのようなことが問題となるのでしょうか。
A
遺産分割協議は全相続人の参加が必須であり、1人でも欠ければ無効となります。改製原戸籍等を通じて相続人を正確に確定する必要があります。
【補足】戸籍調査の重要性

  • 非嫡出子・認知された子・養子・代襲相続人も対象
  • 行方不明者・海外在住者にも連絡必須

Q
遺産分割協議の公正証書を作成する際に、各相続人の相続分を算定するに当たって、どのようなことに留意したらよいのでしょうか。
A
法定相続分を前提に、配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹などの順位と人数により相続割合が決まります。遺言がある場合はそちらが優先されます。
【主な相続分】

  • 配偶者+子:配偶者1/2、子全体で1/2(均等割)
  • 配偶者+親:配偶者2/3、親1/3(均等割)
  • 配偶者+兄弟姉妹:配偶者3/4、兄弟姉妹1/4(均等割)

※胎児や代襲相続人、非嫡出子も同等に扱われます。

Q
遺産分割の対象については、どのようなことに留意したらよいのでしょうか。
A
相続財産のうち「一身専属権」を除いた財産が分割対象となります。遺産分割の対象となるためには、5つの要件を満たす必要があります。
【対象5要件】

  • ① 相続により取得
  • ② 相続時に存在
  • ③ 分割時にも存在
  • ④ 未分割
  • ⑤ 積極財産(プラスの財産)

対象外の例: 年金受給権・仏壇墓地・損害賠償請求権など

Q
遺産分割の手続については、どのようなことに留意したらよいのでしょうか。
A
遺産分割手続では、遺言・相続人・財産の調査を先行して行い、全員参加で協議・協議書の作成が必要です。署名押印が揃わないと無効になります。
【注意点】

  • 協議は相続人全員で行うこと(電話・メールでも可)
  • 協議書には全員の署名・実印が必要
  • 相続税の申告期限は相続開始から10ヶ月以内

不動産がある場合、登記も早期に行わないと納税義務通知が全員に届くことになります。

Q
遺言の内容と異なる遺産分割協議をすることができるのでしょうか。
A
相続人全員の合意があれば、遺言の内容と異なる遺産分割協議を行うことは可能です。ただし、受遺者がいる場合や遺産分割を禁止する条項がある場合は、原則として遺言が優先されます。
【協議が可能な条件】

  • 相続人全員の合意がある
  • 受遺者がいない、または了承済み
  • 遺言に分割禁止条項がない(民法908条)

注意点: 後日、遺留分侵害請求のリスクがあります。

Q
遺産分割協議をやり直すことはできますか?
A
原則としてやり直しはできませんが、相続人全員の合意があれば再協議は可能です。ただし、内容によっては贈与税が課される可能性や、第三者が現れていた場合の制限があります。
【注意点】

  • 再協議により取得分を変更 → 贈与税のリスク
  • 不動産売却後は第三者(買主)の権利が優先(民法177条)

Q
「遺産分割協議書」はどのように書けばいいですか?
A
遺産の分割が確定したら、相続人全員の署名・実印・印鑑証明を添付して遺産分割協議書を作成します。書式に決まりはありませんが、財産の内容や分配先を正確に記載する必要があります。
【主な記載項目】

  • 被相続人の氏名・死亡日
  • 相続人全員の氏名・住所・印鑑証明(3ヶ月以内が望ましい)
  • 財産の内容(不動産・預金など)と分割方法

不動産→登記簿記載の所在地・面積、預貯金→金融機関名・口座番号などを正確に記載。

Q
生前贈与を受けていた人には遺産をどう分割すればいいですか?
A
生前贈与を「特別受益」としてみなし相続財産に加算し、相続分を計算します。婚姻、養子縁組、住宅購入などが典型的な特別受益とされます。
【特別受益の持戻し計算例】

  • 遺産:3,000万円
  • 長男の生前贈与:500万円
  • みなし相続財産:3,500万円
  • 相続人3人 → 各1,166万円(長男は贈与控除後 666万円)

※全ての贈与が特別受益とは限らない点にも注意。

Q
親の介護などの貢献は遺産分割にどう反映すればいいですか?
A
寄与分として評価される可能性があります(民法904条の2)。特別の寄与があったと認められれば、遺産分割の際に相続分の上乗せが認められます。
【認められる条件と実務ポイント】

  • 通常の扶養を超える特別の貢献(例: 長年の無償介護)
  • 証拠として介護記録・領収書・証言等を用意
  • 目安: 遺産総額の10〜20%程度(裁判所の判断による)

話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に申し立て可能です。

Q
遺言を使えば、どのように遺産を分けてもかまわないのですか?
A
遺言は自由ですが、「遺留分」を侵害する内容は無効となるおそれがあります。相続人の最低保障としての遺留分は確保されなければなりません。
【遺留分の基本】

相続人 遺留分割合
配偶者のみ 1/2
配偶者 + 子 配偶者1/4 + 子1/4

遺留分を侵害しないよう現金を用意するなどの対策も有効です。

Q
一番もめない遺産分割の仕方はどのようなものでしょうか?
A
特別受益や寄与分を踏まえた上で、相続人それぞれにとって納得感のある公平な分配を行うことが最善です。
【紛争回避の工夫】

  • 特別受益・寄与分を明示的に説明
  • 自宅等の不動産は使用権と代償金で調整
  • 事前相談・個別協議を実施(誤解や不満を未然に防ぐ)

例:「長男には自宅を、次男には預金を500万円」など。

Q
遺産分割の過程では、専門家の力を活用するほうがいいですか?
A
相続税の申告・不動産の評価・遺言書の効力判断など、専門的な判断が必要な場面が多いため、司法書士・税理士・弁護士等の専門家の活用は有益です。
【専門家の活用メリット】

  • 税理士:相続税対策・節税シミュレーション
  • 司法書士:不動産登記手続き
  • 弁護士:紛争や寄与分争いへの対応

特に相続人が多い・相続財産が高額な場合は、第三者の助言でトラブル防止につながります。

Q
「争族」になる原因は何ですか?
A
遺産分割が「不公平」と感じられることが最大の原因です。特別受益・寄与分・遺留分の無視が典型例です。
【争族の原因と予防】

  • 長男に大学費用500万円を出していたが、他の兄弟に配慮なし
  • 全財産を内縁の妻に遺贈 → 子の遺留分が侵害され紛争に

予防策として、遺言書に「付言事項(気持ち)」を添えるのが有効です。例:「長年介護してくれた長男に感謝し、自宅を相続させる」

Q
遺産分割でもめた場合、家庭裁判所をどのように使えばいいですか?
A
家庭裁判所では「遺産分割調停」または「審判」によって中立的に解決を図ることができます。調停では第三者(調停委員)が間に入って話し合いを仲介します。
【家庭裁判所の利用方法】

  • 調停: 当事者と調停委員の話し合いで合意形成を目指す
  • 審判: 調停が不成立の場合、裁判官が法に基づき分割内容を決定
  • 所要期間: 数ヶ月~1年程度(複雑な事案は長期化)

裁判所を利用する前に、書面や証拠(財産目録・寄与分の記録など)を準備しておくとスムーズです。