凸版印刷から、弁護士とお客様との関係を考える。

投稿日:2017年8月18日

カテゴリ:事務所ブログ

凸版印刷が団交拒否、つまり不当労働行為をなしたとして、都労委から救済命令を受けた事実は、大きく報道され、ご存知の方も多いと思います。

都労委の命令は、会社側に団交に応じることと、謝罪文の張り出しを求めており、都労委が本件について重く見、厳しい対応を取った事実が看取されます。命令全文から判る経緯からすれば、都労委がこのような厳しい態度を示したことも、やむなしと思わざるを得ません。

「パワハラ」「ブラック企業」などと盛んに書き立てられていますが、一弁護士としてこの事件からつくづく考えたのは、お客様(企業)と弁護士の関係の、在り方についてです。

凸版印刷の代理人の先生はとても有名な弁護士です。本もたくさん書いている。しかし、合同労組対応に関する見解は非常に独自です。通説ではなく判例も採用していない見解でした。

気になるのは自分の弁護士の考え方、訴訟方針が特異であるということを、お客さんである凸版は知っていたのかということです。弁護士自身はさすがに知っていたはずです。それをお客様に説明し納得してもらっていたのかということ、これはとても気になります。

そして、おそらく非常に分が悪い状況で進んだ審査の途中で、お客さんは、これはおかしい、この弁護士の戦略に従っているとヤバい、これは負けるぞ、と気づけなかったのかということ。これも気になります。

第一の点について説明していないのであれば、誠実な弁護士とは言えません。さらに言えば、自分の見解が特異なものであり、裁判所に認められる可能性が低いと知りながら、その見解をお客様に押し付け、負ける方向を選択するというのはどう見ても誠実ではない。

第二の点についてですが、都労委には会社担当者も弁護士とともに出ていたのではないかと推測します。あくまでも推測ですが、ま、私だったら必ず連れて行きます。

その時に担当者は、審理の雰囲気を見て、さすがにこれはまずいな、と思ったのに、弁護士に言い出しにくくて、言えなかった…。

のではないだろうか。いや、あくまでも推測ですが、もしそうなら、これは本当に悲劇です。お客様が、自分の疑問を素直に口に出し、弁護士に尋ね、腹を割って話してみる、これはとても大事です。

「先生にこんなことを聞くのは、失礼ではないか」「気分を害され、以後、一生懸命やってくれなくなるのではないか」「怒られるのではないか」とお客様が不安に思い、聞きたいことも聞けないようでは、そもそも弁護士・お客様間の信頼関係に問題があると言わざるを得ません。

我々の事務所にも時々、どうも自分の弁護士のやり方に納得できない。セカンドオピニオンがほしい、というお客様がいらっしゃいます。お話は承りますが、弁護士業はその弁護士によって、やり方、方針がいろいろあるものです。上述のとおり、明らかに負ける方向を取るのは論外にせよ、それ以外の、例えばどの証拠を出すか出さないか、どのタイミングで出すか、といったところでは、どれが正解でどれが間違い、とは断定しにくい。なので、「どうしてあなたの先生がそう言うやり方をなさるのか、よく腹を割って話し合われてみてください。何かお考えがあるのかもしれません」という程度のご回答しかできないことが多いのです。

ただし、一つだけ、弁護士が絶対やってはいけないこと、これをやる弁護士は、信用しない方がいいということがあります。それは、特段の理由なく、事前連絡もなく、期日に遅刻すること、最悪、すっぽかすことです。これをやる弁護士は、裁判所との約束も、お客様との約束も、相手方との約束も、守れない人間だということです。これだけは、決してやってはいけないことです。このことは、覚えておいていただいた方がいいと思います。