ドナドナドーナと器物損壊罪

投稿日:2017年6月9日

カテゴリ:事務所ブログ

食肉処理場に向けて運搬されていた豚がトラックから逃げ出し、高速道路を走り回ったというニュースご覧になりましたでしょうか。

あのニュースを見て法律家がすぐに思い出すのは、大審院判例明治44年2月27日でしょう。これは、養魚場の水門を開いて、飼われていた鯉をすべて逃がしたという行為が、器物損壊罪に該当する、と判示した、とても有名な判例です。これを知らない法律家はまずいません。

器物損壊罪は、文字通り「他人のものを壊した」ときに適用される罪名ですが、ここでいう「壊す」とは、物理的な破壊ではなく(この場合にも、鯉という財物自体が物理的に破壊されたわけではない)、その物の経済的価値が減じることである、という有名な判例になります。

ですので、たとえば、いわゆ「ドナドナドーナ」つまり、売られて殺されていく運命の子牛がかわいそうだからと言って、子牛を逃がしてはいかんのです。これも器物損壊罪になるでしょう。

ただ、ポイントは、器物損壊罪は過失による時には成立しないということです。行為者に明確な故意がある、つまり、鯉を、子牛を、逃がしてしまえ、と思って逃がした時にだけ成立する。そして「お前わざとやっただろ」というのは、犯罪の成立を主張するものが、立証しなくてはいけません。

今回の脱走劇の経緯は、トラックが衝突事故を起こした際に、貨物台から豚が落下し、脱走を開始したということのようですから、迷惑でこそあれ、豚を逃がしてしまったトラックの運転手さんは、器物損壊罪には該当しないように見受けられます。ただし民事の責任は別です。高速道路を走っていて、前方から豚が飛び出して来たら、まず間違いなく驚き、ブレーキを踏む、或いは接触を避けようとしてハンドルを切り、何らかの事故が生じることは十分に考えられます。その場合の責任は、別途問われることになるでしょう。