「判決言渡し」のリアル

投稿日:2017年3月13日

カテゴリ:事務所ブログ

刑事裁判の判決の言い渡しは、しばしば話題になります。「主文言い渡しが後回しになった。すわ、死刑か?」という報道、ご覧になられたことがある方も多いでしょう。
ですが、民事事件の判決の言い渡しも、同じように劇的かというと、全く違います。
判決言渡しの指定日時に、裁判長が席に着きます。「では、判決を言い渡します。」そして「主文 被告は原告に対し、金〇円を支払え。訴訟費用は…」と言うか、「主文 原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」と言うか。このどちらかです(もちろん家事事件の場合には、「主文 原告と被告を離婚する」というのもありますが)。この一言で終わってしまうので、言い渡し期日は、だいたい10秒もあれば終わります。10秒、裁判官がぼそぼそっと喋って、それで終わり。
どのような理由で勝ったのか、負けたのかは、その場ではわかりません。その理由は、「判決文」に詳細に書かれています。これを、判決言い渡し期日の後に、書記官から受け取って(送達を受ける、と言います)それを読んで、初めて「ああ、この論点で勝ったのだ」「この証拠が決定打になって負けたのだ」ということが判るのです。
というわけで判決言い渡し期日にせっかく出頭しても「勝ったのか負けたのか」しか、わかりません。なので、たいていの弁護士は判決言い渡し期日に出頭しません。例えば判決言い渡し期日が、3月13日午後13時10分だとしますと、弁護士は13時30分くらいに、裁判所に電話をかけます。そして書記官に「例の事件の判決の主文教えてください」というのです。どうせ出頭しても、それ以上のことは判りません。
ただ出頭しますと、言い渡し期日の直後に書記官室に立ち寄り、その場で判決を貰えます。しかし、これも善しあしなのです。というのは、その判決に不服がある場合当然、上級裁判所に控訴することになります。その控訴の期限は、「判決文を受領した日から、14日以内」です。
言い渡し期日直後に書記官から判決文を受領してしまうと、14日がその瞬間から、始まってしまいます。書記官室に取りに行かず、郵送を待っていれば、それだけで3日くらい稼げます。その間に、控訴に必要な印紙代を揃えたり、委任状を取り付けたりなど、事務手続きを進めておくことができるのです。
もちろん、言い渡された主文に不服がなく、控訴する予定がなければ、別にいつ判決文を受領してもいいのですが、不服があり控訴する可能性があるのであれば、判決文の送達を受けるのは少しでも遅らせたいのです。そのためには、判決文を取りに行かず、事務所で郵送を待っていた方がいい。したがって言い渡し期日に行く必要もない、と、こういうことになります。
それでも判決言い渡し期日は弁護士にとってとても嫌なものです。気になって気になって仕方がない。わたしなどだいたい1週間前から苛々しています笑。当日は朝から事務所の中をウロウロと歩き回り、いよいよ裁判所に電話を掛けるときには受話器を握る手が震えます。結果、勝ったら勝ったと酒を飲み、負けたら負けたと酒を飲む。言渡しの一日は、実際のところ、こうやって暮れていくものです。